Evelinaサムネイル

今回はEvelina, or the History of a Young Lady’s Entrance into the Worldを紹介していきます。一言で言ったらイギリスの名作闇深シンデレラストーリーって感じのお話です。

英語版はProject Gutenbergで無料で読めるよ!
https://www.gutenberg.org/ebooks/6053

解説を行う意義

こちらの作品、僕の探した限り今現在まだ和訳本が発売されていません。でも今読んでも面白い作品です。少し昔の作品なので、英語は少し難しいかも……。

もしこのページをちらっと見た翻訳者さんが和訳を出版してくれたら僕が嬉しい。

作者紹介

作者フランシス・バーニー(1752 -1840)は、イギリスの風刺小説家・日記作家・劇作家です。ファニー・バーニーってあだ名もあります。

4つの小説を書いているんですが、1778年に書かれた最初の作品Evelinaは一番売れたし、現在でも最も高く評価されている作品です。

ちなみに1778年はアメリカは独立戦争中、日本は江戸時代中盤辺りだよ。ずいぶん昔だね。

https://en.wikipedia.org/wiki/Edward_Francis_Burney

作品の特徴

一番の特徴は書簡体小説、つまり全部が誰かの書いたお手紙でできた小説だってことだと思います。

当初は匿名で出版されました。当時女性が小説を書くのってあんまり褒められたことじゃなかったので……。

起承転結であらすじを簡単に紹介すると、田舎で孤児として暮らしていたEvelinaが、本当の父親に認知されて、好きになった貴族と結婚するっていうシンデレラストーリーです。

ただ、このお話の大事なところはあらすじが本質ではないってことだと思う。

テーマとしては、家父長制批判というのが一つあります。フェミニズム批評とかの意味でもとても現代的な作品と言えますが、これに関しては最後にまた解説します。

あらすじ

ハワード夫人が長年の知人であるアーサー・ヴィラーズ牧師に宛てた手紙から始まります。

その手紙には、ヴィラーズが後見人をしている主人公エヴェリーナ・アンヴィルのおばあちゃん、デュヴァル夫人が、孫娘のエヴェリーナに会いにイギリスに来るつもりであることが描いてあります。このデュヴァル夫人、表記はマダム・デュヴァルになってるしフランス人ぽいんだけど、えせフランス人みたいな感じなんだよね。しかもなんか挙動不審で、作中ずっと馬鹿にされています。それで、デュヴァル夫人は、エヴェリーナを自分の血縁者としてフランスに連れていこうとします。ヴィラーズ牧師はエヴェリーナが大好きだから、デュヴァル夫人からエヴェリーナを引き離すためにエヴェリーナをハワード夫人の家であるハワードグローブに長期休暇で滞在させます。エヴェリーナの滞在中に、ハワード夫人の夫で海軍士官のキャプテン・マーヴァンが7年ぶりに英国に帰ってきます。そしてエヴェリーナはマーヴァン一家のロンドン旅行に同行することになります。

ロンドンで美しいエヴェリーナはいろいろな人に注目されますが、田舎生まれで18世紀のロンドンの慣習や正しい振る舞い方を知らないエヴェリーナは変なことをたくさんしてしまいます。いわゆるお上りさんなので……。そうしてエヴェリーナは二人の貴族から好意を寄せられるようになります。それが、魅力的な貴族オーヴィルと、二枚舌の失礼なクソ男クレメント・ウィロビーです。

エヴェリーナはロンドンでデュヴァル夫人に再会しますが、あまりにも振る舞いが下品なので困ってしまって、オーヴィル卿は素敵すぎて私の手の届く人じゃないなあと諦めてしまいます。

マーヴァン一家は、エヴェリーナとデュヴァル夫人を連れて帰ってきます。デュヴァル夫人は、エヴェリーナの本当の父親であるジョン・ベルモント卿を訴えて、エヴェリーナの遺産相続を裁判で認めさせようと画策します。

というのも、エヴェリーナは、生まれてすぐに母親を亡くしていて、女癖の悪い父親に捨てられていました。ハワード夫人はジョン・ベルモント卿に手紙を出して、エヴェリーナが本当の娘であることを知らせようとします。でも彼はそれを信じてくれませんでした。もう自分の娘だと思われる子がいるから、デュヴァル夫人が金目当てに自分をだまそうとしていると思ったんです。まあそらそう。

怒ったデュヴァル夫人はエヴェリーナをパリに連れていって訴訟を起こすと脅します。エヴェリーナはデュヴァル夫人と一緒にロンドンに戻って、そこでスコットランド出身の貧しい詩人マカートニーに出会います。彼は貧しいうえに母親が死んだあとで、しかも好きになった人が実の妹だったという事件から立ち直れないでいました。そんなマカートニーに、優しいエヴェリーナはお金を貸してあげました。その後パーティーでオーヴィル卿に再会します。そして彼がエヴェリーナを探していて、再会を望んでいたのを知ってびっくりします。エヴェリーナはオーヴィルに好かれていることに気づいていませんでした。鈍感主人公だから。そんな時にオーヴィル卿からと書かれたすごく失礼な手紙が来て、彼のことを誤解してしまいます。

その後エヴェリーナは、皮肉屋で短気だけど頭のいい未亡人セルウィン夫人と一緒にリゾート地のクリフトン・ハイツにいきます。このセルウィン夫人が男性陣にぶちかます皮肉が本当に面白いので読んでほしい……。

そしてそこにオーヴィル卿がきます。例の手紙のせいでエヴェリーナは距離を置こうとするんだけど、それでも彼はやさしくって、じゃああの手紙はなんだったんだと悩むことになります。

さらにそこに今度はマカートニーがきます。妙にエヴェリーナと仲良さげだから、オーヴィル卿はマカートニーに嫉妬します。マカートニーはエヴェリーナにお金返しにきただけなんだけど……。

エヴェリーナは例の失礼な手紙のせいでオーヴィルのことを誤解し続けていましたが、今度はセルウィン夫人が、オーヴィルがクレメント・ウィロビーにエヴェリーナへの失礼な態度を注意していたのを聞いたとエヴェリーナに知らせて、オーヴィル卿とエヴェリーナの間で誤解が解けます。オーヴィル卿がプロポーズして、エヴェリーナは大喜び。

そしてついにセルウィン夫人は、ジョン・ベルモント(エヴェリーナの本当の父親)との面会を実現させます。彼はエヴェリーナを見て、彼女が明らかに母親のキャロラインに似ていることに驚いてエヴェリーナを娘と認めます。つまり、今のミス・ベルモントが偽物だと認めました。

じゃあ今ベルモントの娘になっている子供はだれ?ってなって。誰だったかというと、エヴェリーナの乳母だった人の娘でした。自分の娘の将来の為に、貴族の娘と取り換えたのでした。

そのころ、クレメント・ウィロビーはエヴェリーナに手紙を書いて、例の失礼な手紙を書いたのは自分だと告白します。これで完全にオーヴィルの誤解は解けました。良かったね。

一方パリでは、マカートニーは昔好きだったけど実の妹だと思って諦めていた偽物のミス・ベルモントに再会します。もうわかりますね、2人は全く血が繋がっていないので結婚できることになりました!良かったね。

そしてこの偽物のミス・ベルモントがジョン・ベルモントの娘、つまり貴族の称号を持っているうちにマカートニーと結婚させて、そのあとエヴェリーナをジョン・ベルモントの娘として結婚させるという荒業で大団円を迎えます。おめでと~!!!

感想と解釈

どう思いました?最初の方はずいぶんわちゃわちゃするくせに終盤の展開急すぎない?

これ、僕のまとめ方の問題じゃなくて、元々の小説がこうなんだよ。面白いよね。

最初の方に、テーマとして家父長制批判があるっていう話をしたと思うのですが、それに関して詳しく書いてみます。

まず、このエヴェリーナという女の子は、当時の理想的な女性像を体現したような女の子です。

  • 容姿端麗
  • 従順
  • 純真無垢
  • やさしい

こういう子を英文学界隈では『家庭の天使』って言い方をします。覚えなくていいです。エヴェリーナに足りないのって、社会常識だけなんだよね。機転は効くし。

このお話が現代でも高く評価されているのは、こんな当時の男性社会の理想像とでも言えるような女の子が、社会の矛盾・家父長制や男性中心主義の非合理性を、純粋であるがゆえに暴いてしまうっていうのがおもしろいっていうのが一つあるんじゃないかなとおもいます。

最初、オーヴィルに会うパーティーで、エヴェリーナはダンスに自信がなかったから踊りたくなくて、ダンスを誘われても断ります。

これはエヴェリーナがロンドンでやってしまう失敗の一つで、当時女の子は男の人にダンスを誘われたら決まった相手がいない限り応じないといけないというルールがありました。

でもそんなのおかしいし、そんなルールなんてエヴェリーナは知りもしないから、当然の権利としてダンスを断ってしまう。

つまり、男性社会が理想としたような女の子が、理想的な性質の一つである純粋さのせいで、男性中心主義の非合理性を暴いてしまうという構造が浮かび上がるわけです。

エヴェリーナは無意識でやってるけど、意識的に皮肉を使って男性中心主義を批判するキャラクターとしてセルウィン夫人がいます。

でも、セルウィン夫人みたいなあからさまに反抗的な女が主人公で、エヴェリーナみたいに幸せになるお話だったら、たぶん当時はクソほどアンチにたたかれたと思うし、人気出なかったと思う。無意識なんです!可愛い女の子なんです!!許して~!っていいながら、エヴェリーナはセルウィン夫人がやってることと本質的には大差ないことをしてるんだよね。だからなんとなく許されてる。

このお話は、かわいい女の子が幸せになるキラキラシンデレラストーリーの皮を被って、痛烈に社会批判をしている本とも読めます。

でもこれが唯一の読み方ではないし、各々好きに読解して楽しんでくれたら僕は嬉しいです。

このページが面白いと思ったら、みんなもEvelinaを読んでみてくれたら嬉しいです。今回ブラントン一家の話とかかなり省略しちゃったし、何も知らなかったエヴェリーナがどんどんしたたかになっていく過程とかはぜひ読んで楽しんでほしい!

By 越雲エイル

本が好きなVtuber。 本を買いすぎて本棚を壊しました。

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