夢野久作『線路』サムネイル

運命って自分の力ではどうにもならないことが多いよね。簡単に自分自身の運命を作り出す方法を夢野久作が教えてくれるよ!!

この記事では、夢野久作(1889-1936)の『線路』(1927)を紹介します。

夢野久作と言えば、奇書『ドグラ・マグラ』のイメージが強いという方が多いのではないでしょうか。そのせいでどうにも猟奇的・難解なイメージがついてしまって手が出せないという方も多いかもしれません。ですが、実際は児童文学や短編も多く書かれていますし、本作は5分でさっくり読めちゃいます!しかも「夢野久作の世界観」みたいなものもしっかり味わえるおすすめ作品です!!

青空文庫なら無料で読めますよ!
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(本当は『ドグラ・マグラ』もそれほど読み難い本ではないんですよ。イメージの割には。)

あらすじ

冬の日差しの下、主人公は町への近道として線路を歩いていました。すると、踏切が落ちて貨物列車が接近してきます。主人公はなぜか列車を避ける気持ちがなくなり、機関車を睨みながら胸を張り、線路を進みます。迫る列車に本能的な反抗心が湧き上がるのです。

同時に、真っ黒な鉄の車両に不思議な魅力を感じます。今が自分の運命を作り変える最良の機会であり、絶対の自由が目前に迫っているとさえ思います。

近づいてくる黒い機関車の描写は真に迫るものがあります。轢かれる直前まで主人公は線路の上にいますが、結局線路か出て走り去る機関車を見つめていると、やはり死ねばよかったと屈辱と後悔に満ちた気持ちがこみ上げてきました。

主人公は線路の上に横たわる自分の轢死体の幻覚を見て、歩きながら「もし今機関車に轢かれていたらどうなったか」を想像します。すると、どうにも失恋だの厭世自殺だの好き勝手に言われて、結局のところ大して気にも留められない様子しか思い浮かばないのです。

   

作者紹介

夢野久作は福岡出身で、高名な政治家の父を持つ近代国文学界隈でも結構上位のお金持ち生まれです。趣味は能楽鑑賞。

従軍経験もあり、慶応大学在学中に陸軍少尉になりました。大学中退後に農園を始めるも失敗し、東京で出家し関西で修業をしますが2年で還俗。この頃27歳くらいで、めちゃくちゃな20代を過ごしています。28歳で九州日報にコネ入社し、文筆業が始まりました。童話やポンチ絵を連載していたよ!

夢野久作の特徴としては、「独白体形式」と「書簡体形式」というものが挙げられます。

「独白体形式」とは、主人公の心情が誰に言うでもなく語られる形式の小説です。ずっと主人公の視点なので、主人公に見えているものしか書かれません。「一方そのころサバンナでは」ができないスタイルですね。

「書簡体形式」とは、誰かの手紙を並べてストーリーが作られている形式です。書簡とは手紙のことなのでこのように定義されていますが、手紙だけでなく日記や論文などの登場人物の文章作品が作中の大部分を占める場合は「書簡体小説」と呼ばれます。

本作は主人公の語りで紡がれているので「独白体形式」に当たります。夢野久作の「書簡体小説」には有名作が多いです。『瓶詰の地獄』『少女地獄』だけでなく、『ドグラ・マグラ』も主人公が論文などの作中作を読解する場面が大半なので、「書簡体形式」に当たります。

夢野久作と言えば日本三大奇書に数えられる『ドグラ・マグラ』が有名ですが、個人的には『白髪小僧』の方が大分やばい作品だなと思います。ぜひ読んでみてください。

   

感想と考察

自殺で運命は変えられない

主人公が「思い切って衝突すればよかった。そうして死ねばよかった」と思うのは、失恋でも厭世でも覚悟の自殺でもありません。自分の思いのままになるとは限らない運命の束縛から逃れ、完全な自由意志をつかみ取ろうとしたからです。他人からも社会からも隔絶された自分だけの意志を守るために死のうとしました。

ですが、死んだとしてどうなったでしょうか。彼の轢死体を見た人々はきっと、好き勝手に彼の死に理由をつけようとするのです。厭世や失恋など、他者からの影響で自殺を覚悟したに違いないと思われてしまうでしょう。死んでも彼の運命に対する自由は守られないであろうことは想像に難くありません。死人に口なしってやつですね。

「人類生活の条件と因縁」から離れるとはそういうことなのかなと思いました。自殺によって、人類の生存本能からも社会からも強引に自由になろうとする誘惑があったのかもしれません。

それでも思い直して主人公は線路の向こうへ歩いていくのですが、最後のセリフは「水か飲みたいな」でした。無理にでも運命に逆らおうとする誘惑はとりあえず消えたみたいですね。生存本能に満ちた一言で物語は終わります。

感想

猟奇的でこそないものの、死体の幻想を見るなどしっかり不気味な部分もあって、夢野久作の世界観をインスタントに楽しめる素敵な短編だったのかなと思います。

とはいえあまり文学を読み慣れていない人には難しい部分もあるかもしれません。昔Youtubeで『線路』の読書会をしたのですが、「結局主人公が死んだのか死んでないのか分からなくて混乱した」とかの意見も出ていました。夢野久作の独白体の難しさですよね。独白体なのでわざわざ「轢死体の幻想を見た」とかって書いてくれないことが多いんですよ。彼からすれば本当に轢死体があるように見えているので……。

以上、夢野久作のおすすめ短編『線路』を紹介しました。
書く上で、日本語資料ってどうやって引用したらいいんだ……?ってところでめちゃくちゃ悩んじゃいました。僕は弱い。国文科の方ってどんなフォーマットを使っているんですか?

By 越雲エイル

本が好きなVtuber。 本を買いすぎて本棚を壊しました。

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